酸素と硫化水素の危険濃度と測定について
人々が生活している環境では、一般的に空気中に酸素が20.9%含まれており、硫化水素はほとんど存在していません。 しかし、作業現場や工場では酸素の濃度が低下していたり、硫化水素が存在していることがあります。そのような場所では人員に危険を及ぼす可能性があるため 細心の注意を払っていただく必要があります。
一例ですが、そのような現場を挙げていますので参考にしてください。
・トンネル・立抗・地下室・鉱山や炭鉱・石油工場や化学工場・造船場や船倉・下水道や下水処理施設
・清掃工場や汚泥処理施設・製紙工場・食肉や魚肉などの食品加工工場・火山地帯や温泉地域 など
酸素欠乏症と硫化水素中毒の危険性
酸素は無色無臭の気体のため濃度が変化しても気が付きませんが、その濃度が低下し16%になると人体に影響を及ぼします。さらに濃度が低下すると死に至ることもあります。作業現場や工場の酸素濃度は18%以上であることが条件です。
硫化水素も無色の気体ですが、特有の腐卵臭があります。その濃度が20ppmを超えると嗅覚が麻痺し判別が困難になります。さらに濃度が増加すると死に至ることもあります。作業現場や工場の硫化水素濃度は10ppm以下であることが条件です。
測定と管理について(ガス検知器の使用例)
作業開始前や昼休みなどの作業中断後には必ず作業現場の酸素と硫化水素の濃度測定を行い、作業中も継続して作業者付近の酸素と硫化水素の濃度測定を行う必要があります。また作業現場は連続して換気を行い、常に酸素が18%以上、硫化水素が10ppm以下であることをガス検知器で測定し続けることが大切です。
測定した値は必ず記録しておき、3年間は保管しておく必要があります。
エンジン式発電機による酸素欠乏症と、一酸化炭素・二酸化炭素中毒
トンネル、立坑、暗きょ、マンホールやピット内部などの作業では照明や動力用の電源としてガソリンやディーゼルのエンジン式発電機を使用することがあります。
このエンジン式発電機を使用する場合は、現場の換気を充分に行ってください。
なぜならエンジン式発電機が稼動することにより酸素が消費され、同時に一酸化炭素や二酸化炭素が排出されるからです。
その様な現場で換気を怠れば、作業をされている方々が酸素欠乏症や一酸化炭素・二酸化炭素中毒をおこすことがあり、残念ながら死に至った事故も発生しています。
また井戸掘りや坑内に溜まった水を排出するために小型のエンジン式揚水ポンプを持ち込む際にも換気の対策を行い、酸素欠乏症や一酸化炭素・二酸化炭素中毒を防ぐように心がけてください。
酸素・一酸化炭素・二酸化炭素は無色無臭の気体です。私たち人間の感覚ではその増減を認識することは出来ません。必ずガス検知器を使用して安全な作業を行ってください。
酸素・硫化水素の濃度測定について
(1)測定者の心得
1.測定者は、測定方法やガス検知器の取扱いに熟知しておくこと。
2.測定者は、保護具の装着なしに測定場所に近付いたり覗き込んだりしないこと。
3.測定は緊急事態の発生に備え、救助・通報等のために監視人と一緒に行うこと。
また測定前には必ず救助方法と通報先を打ち合わせておくこと。
4.墜落や転落の恐れのある場所では測定者と監視人は安全帯等を用いること。
5.奥深い場所や入り組んだ場所を測定するときは、空気呼吸器等を装着して測定すること。
6.メタンガスなど可燃性ガスの存在するおそれのある場所では、開方式酸素呼吸器や酸素を発生する機材を使用しないこと。また測定時に使用する電動機器は防爆構造であること。
(2)測定時の注意事項
・ガス検知器は必ず日常点検を行うこと。
・空気の流れが悪い場所やよどんでいる場所では、酸素欠乏症や硫化水素中毒になりやすい。
・作業場所だけでなく作業者の移動する通路等も全て測定をすること。
・暗きょや隧道では横方向の測定となるが、マンホール・汚水処理槽・タンク・貯槽・船倉など降下して作業をする場所では必ず縦方向の測定も行う。
・硫化水素は空気より重く底部に溜まっていることがあるため、足元付近の測定も行う。
・酸素濃度の低下や硫化水素の存在が確認されなくても、作業場所や通路では常に換気と測定を行うことが望ましい。
・酸素濃度の低下や硫化水素の存在が確認された場合や、その恐れのある場所では必ず呼吸器を装着して測定を行う。
・作業開始前や昼休みなどの作業中断後には必ず作業現場の酸素と硫化水素の濃度測定を行うこと。
・測定した値は必ず記録しておき、3年間は保管しておくこと。
(3)測定の方法
※開口部が円形であれば、縦方向の測定箇所は開口部の直径dメートルあたり、d箇所あるいはそれ以上とします。(直径3mの開口部であれば、3箇所あるいはそれ以上)
1.開口部からセンサー部(吸引部)を1m程下ろして測定します。
2.底部まで3~5m間隔でセンサー部を下ろしながら測定を行います。(この間隔は現場の状況で判断します)
3.センサー部が底部に着いたら、10~20cm程引き上げて測定します。(足元の高さ)
4.さらにセンサー部を1.5m程引き上げて測定します。(顔の高さ)
5.横方向など奥深い場所を測定するのであれば、底部に降り立った地点から1m程先の足元と顔の高さを測定します。それ以降は3~5m間隔で進み足元と顔の高さを測定します。
6.終端に到達すれば、終端近くの足近と顔の高さを測定します。
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可燃性ガスと爆発範囲
(1)可燃ガス
空気と混合した状態で、着火により爆発を起こす気体のこと。
ただし、以下の状態では着火しても爆発しないことがあります。
1.メタン(5vol%未満) 水素(4vol%未満) ・・・ 空気に対し可燃性ガスが少ない
2.メタン(15vol%を超える) 水素(75vol%を超える) ・・・ 可燃性ガスに対して空気が少ない
酸素濃度と人体反応
濃度(vol%) |
人体の反応 |
20.9 |
自然界に存在する濃度。 |
18 |
作業環境は18vol%以上であること。連続換気が必要です。 |
16~12 |
呼吸や脈拍数の増加。精神集中力の低下。頭痛、耳鳴り、吐き気。 |
14~9 |
意識もうろう。頭痛、吐き気。顔面蒼白(チアノーゼ)。全身脱力。 |
10~6 |
昏睡、意識消失。全身の筋けいれん。 |
6以下 |
数回の呼吸で失神。呼吸や心臓の停止。6分間で死亡。 |
硫化水素の人間に対する作用と毒性
濃度(ppm) |
作用又は毒性 |
0.3 |
はっきり臭う |
3~5 |
中等度の強さの不快臭 |
10 |
作業環境は10ppm以下であること。眼の粘膜が刺激される下限界。 |
20~40 |
強烈に臭うが、耐えられぬことはない。肺粘膜刺激の下限 |
100 |
2~15分で臭覚が鈍くなる。1時間で眼や気道の刺激。 8~48時間の連続で死亡することがある。 |
170~300 |
1時間で重大な健康障害を起こさぬ限界。 |
400~700 |
30分~1時間ので生命の危険あり。 |
800~900 |
速やかに意識喪失。呼吸停止。死亡。 |
1,000 |
直ちに意識喪失。死亡。 |
一酸化炭素の人間に対する作用と毒性
濃度(ppm) |
作用又は毒性 |
50 |
許容濃度。連続換気が必要。 |
100 |
数時間の呼吸後でも目立った作用はない。 |
200 |
1.5時間前後に軽度の頭痛を引き起こす。 |
400~500 |
1時間前後で頭痛、吐き気、耳鳴り等を起こす。 |
600~1,000 |
1~1.5時間前後で気を失う。 |
1,500~2,000 |
30分~1時間前後で頭痛、めまい、吐き気が激しくなり、意識を失う。 |
3,000~6,000 |
数分で頭痛、めまい、吐き気等が起こり、10分~30分で死亡。 |
10,000 |
直ちに意識喪失、死亡 |
用語解説
- 防爆構造
- 爆発性ガス中の雰囲気中において、機器内部の着火源が外部に影響することを防ぐ構造。または着火源を持たない構造。防爆構造の中には、「耐圧防爆構造」「本質安全防爆構造」「内圧防爆構造」などがある。
- LEL(爆発下限界)
- 「Lower Explosion Limit」の略語。爆発下限界と訳す。可燃性ガスが空気と混合して、着火によって爆発を起こす最低濃度。
- UEL(爆発上限界)
- 「Upper Explosion Limit」の略語。爆発上限界と訳す。可燃性ガスが空気と混合して、着火によって爆発を起こす最高濃度。
- %LEL
- 可燃性ガスの爆発下限界の濃度値に対する割合を百分率で表した単位。
- vol%
- ある体積において特定の物質(あるいはガス)が、その体積中でどの程度占有しているかを百分率で表した単位。"vol"はVolumeを意味します。
- ppm
- ガスの濃度を100万分の1の単位で表したもの。※1%=10,000ppm
- ppb
- ガスの濃度を10億分の1の単位で表したもの。※1ppm=1,000ppb
- TLV
- 「Threshold Limit Values」の略語。閾(しきい)限度値と訳す。ほとんどの作業者が連日繰返し被爆しても健康上悪影響をこうむることがないと考えられる有害物質の濃度。TLV-TWA、TLV-STEL、TLV-Cがあり、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)が定めたもの。
- 許容濃度
- 労働者が1日8時間、週40時間程度、通常(激しくない程度)の作業において有害物質に曝(さら)される場合、空気中にある有害物質の濃度がこの数値以下であれば、ほとんどの労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度。日本産業衛生学会の勧告値。